2012年3月8日木曜日

初演出


3月3日、ひなまつりの夜、喜歌劇「ヴェニスの一夜」の演出稽古が始まった。2010年9月5日の歌劇「運命の力」で本番会場の演出卓を離れて以来だから、18か月ぶりの復帰だ。演出家にもいろいろいるだろうが、私の場合、演出というのは台本の執筆同様、かなり寂しい作業なのである。演出を考えているうちは、ああでもない、こうでもないと様々なプランを頭の中でこねくり回し楽しむことができる。だが、これで行く!と決めてしまい、それを演者に伝えた後は、もうそれは大方自分のものではなくなってしまう。もちろん、演出家なら演者にああしろ、こうしろと言えるし、演者とのぶつかり合いのなかで新しい発見があったりするのは楽しい。それでも一度決めた演出を根底からやり直すというのは、ほとんど無理だ。
私にも何度か訪れた人生の分岐点で、もし、あっちの道を選んでいたら…という想像は、40代半ばを過ぎたこの年齢になれば、誰しもが一度はやっている。選択の仕方によっては、今よりも幸福な人生の可能性はあったろう。演出という行為は、私にとって、そのミニチュア版のようなもの。一度決めれば、それで最高の舞台を作るしかないわけだが、選択しなかったプランたちに思いを馳せる瞬間が、公演日まで必ず何度か訪れる。私が演出を“寂しい作業”というのは、そのせいだ。
ガレリア座のソリストたち、合唱団員たちは、もうすっかり私のやり方がわかっていて、初日は見事なスピードで進行した。翌日の稽古とあわせて、たった2日間で第1幕はフィナーレを除いてすべて演出が付いてしまった。あんなに一所懸命考えたのに…、あんなに迷って選んだのに…。寂しさもひとしお。

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